とどまれないの流れに、逆らうこともなく。



「お兄ちゃん?」
暗い顔でもしていたのだろう。
縁寿が心配そうに見上げてきた。
いつもどおり笑えたらいいのだろうが、そんな気分には到底なれず、ごめんなと弱弱しく笑って頭を撫でる。
余計に心配させただろう縁寿を置いて、ゲストハウスを出た。
あの日以来、来ることのなかった六軒島は、実に二年ぶりだった。
戦人は以前のようにいとこたちと遊ぼうとは思えず、一人部屋にこもっていた。
朱志香や譲治が誘いにも来てくれたが、頑なに拒否を示すことで何とか引いてくれた。
浜辺を一人歩いていると、幾分か成長した麻里亞が、真っ白なぬいぐるみを抱いて立っていた。
吹かれる潮風から守るように、大事そうにぬいぐるみを抱いている。
「よぉ。何してんだ?」
振り返った麻里亞が、パッと顔を輝かせた。
「うー。戦人、ベアトからおくりものだよ」
差し出されたその手に抱かれていたのは、ぬいぐるみではなかった。
彼女によく似たブルーの眸が、無邪気に笑う。
「…ぁ」
漏れた声が誰のものだったのか、耳は正確に感知しなかった。
ただ、目の前の眸に吸い寄せられる。
それは彼女によく似た、けれど、もう一つ、よく知った色だった。
「おかえり」
知らず溢した涙は、取り戻したものを知った。



そのおくりものが、生きる