知っているけれど、知らなくていいことだった。
いきなり連れて帰った子供に、留弗夫だけでなく、絵羽や蔵臼たちからもさんざん小言を言われた。
右代宮の一族としては認めないと捲し立てられても、戦人はただ聞き流し、腕の中の子供を拙い手つきであやしている。
唯一事情を知っているであろう麻里亞は、「戦人の子だよ」と笑うだけで話にもならない。
そのうち大人たちの剣幕に泣きだした子供を宥めに行ってしまった。
「うー。戦人。この子の名前、なんていうの?」
宥めるために名を呼ぼうとして、まだ教えてもらっていないことに気づき、麻里亞が戦人を見ると、戦人は小さく苦笑した。
子供は愛らしい女の子だ。
過去の記憶が脳裏をかすめていく。
「リーチェって名前にしようと思うんだ」
名前だけでも、彼女とつながっていられるように。
大きくなった子供に、笑って彼女の話ができるように。
「いい名前だね!うー。リーチェ、いい子いい子。ほら、さくたろだよー」
持っていた人形を見せながら、っきゃっきゃとはしゃぐ麻里亞につられて、次第に泣きやんでいく。
ふと大人たちを見れば、信じられないといった顔つきだった。
子供の名前であの魔女を連想したのだろう。
しかし、戦人にとっては最早どうでもいいことで、腕の中で眠りにつく子供を愛しげに揺らしていた。
つまりその子は、魔女の子供。